21世紀末、最高の文明を誇る世界。 その文明社会の陰の礎となり、人知れず世界の闇に存在する異形、《魔》と呼ばれる存在と戦い続けてきた来た者達がいた。 卓越した戦闘技能を以って《魔》と戦い退ける者、《退魔師》と呼ばれる彼等を纏め上げる一族に生まれ、その長たる総帥となる宿命を背負った少年、華神京也。 しかし、京也は、その宿命に縛られる事を厭い、未だ自らの責務を果す覚悟を持てずにいた。 そんな、京也に対し、彼の武道の師である榊和泉を始めとする一族一党の者達の多くは理解を示し、その支えとなる事を望んでいた。 自らの宿命を受け入れられず、そして、その責務の重さに心惑う京也の心には、嘗て、突然の別離をもって失った存在への愛憎が大きな陰として今も残っていた。 自らの存在に課せられた宿命に惑う京也を嘲笑うが如く、彼の前に一族と因縁の深き宿敵、世界に混乱を齎す存在たる秘密結社の刺客が現れる。 その存在が操る《流血の邪神》の力に苦しむ京也の想いが、永き封印にその身を縛られし特異の存在《戦女神・マナ・フィースマーテ》を解き放つ。 その邂逅こそが、京也と《マナ》の運命の物語の始まりであった。

2007年12月1日土曜日

第八話・神剣

 征也は、京也達に食事を振舞うと、或る申し出を二人に告げる。
「京也、お前に渡したいモノがあるから着いて来てくれ。《マナ》さん、貴女も一緒に来てください」
 更に『少し離れた所に在るから』と付け加えて。征也は、二人を外に連れ出した。
 その征也に誘われる形で京也達が連れて行かれた先は、一族の管理する学園施設の敷地内にある古びた建物であった。
「ここは?」
「それは中に入れば嫌でも分かる。唯、入る前にそれなりの覚悟をしてくれ」
 如何してこんな所へ連れて来たのかを尋ねる京也に、征也は、意味深の言葉を返して施錠された建物の扉を取り出した鍵で開ける。
 その開け放たれた扉の先、建物の内に在ったのは纏わり憑く様に濃い闇であった。
『これは・・・!』
 その異質な空気に尋常なるモノを感じ取って、《マナ》は、驚愕ともいえる感情の言葉を洩らした。
 《神》という身に在って人知を遥かに越える《理》に関する知識を持つ《マナ》だからこそ、目の前に存在するモノが如何に異常であるかを理解する事が出来た。
『これ程までに歪められた《理の力》を感じるのは、正直を言って初めてです』
「やはり・・・そうですか。しかし、これでも幾重にも及ぶ結界で封じられている状態なのです」
 征也から返されたその言葉に、《マナ》は、最早驚きの言葉すら忘れて立ち竦んでいた。
 《マナ》と同様、その肌に感じる空気に嫌なモノを感じていた京也は、二人の交わす遣り取りに自分が目の当たりにしているモノの正体が只ならぬモノである事を思い知らされる。
「ここは異界へと通じる異次元の扉といわれる《業魔の門》を結界で封印した場所」
 征也は、そう京也達に説明して建物の扉の内へと歩みを進める。
 その征也の背中を追う形で、京也と《マナ》も建物の中へと足を踏み入れた。
 京也達二人の目が闇に慣れるより先に、征也が操作した照明の明かりが点される。
 人工の光に照らされそこに現れたのは、地面に大きく穿たれた穴の存在であった。
 そして、それはまるで魔物が獲物を喰らう為に巨大な口を開けているかの如く、その内へと底が見えない深い闇を孕んでいた。
 しかし、《業魔の門》と呼ばれるその存在の不気味さを際立たせているのは、そこから滲み洩れた闇の気配だけではなかった。
 その周囲の地面には、数多の武具が突き刺す様に埋められており、儀式の象徴としてのそれが持つ不可侵の雰囲気を生み出していた。
「京也、ここに在る全ての武具は、我が一族の退魔師達と共に戦い、そして、今尚、その主であった者達の意志に従って、この世界を異界の脅威から護る結界を成してくれている」
 征也が語るその言葉が示すように、そこに在る武具の全てから、その身に宿した守護の力が感じ取れた。
 京也の表情に在るモノから、その理解を察した征也は、向けた視線で京也に着いて来るように告げ、《業魔の門》へと近付いて行く。
 そして、征也は、《業魔の門》を封じる結界の中心を担う三つの武具の一つである剣の前で立ち止まった。
「この剣は、嘗て我等の血祖である神崎政貴がその退魔の戦いで振るったモノ。彼の方が亡き後、誰一人としてこの剣に新たなる主と認められ継承を果した者はいないが、お前ならばそれを果たせるかも、否、必ず果せるだろう」
 征也は、期待ではなく確信を以って、そう京也に告げると彼の為に道を開けた。
「分かりました。遣ってみます」
そう応えて剣の前へと進み出た京也は、一族の伝承に聞く最高の誉れ高き退魔師であった存在が遺した武具に対し、その敬意を示すべく一礼を捧げて恭しく両手を伸ばす。
そして、永き歳月を経て尚、朽ちる事無く清廉とした姿を持つその剣の柄へと掌を重ねた。
京也は、力強く握り締めたその掌から伝わってくる温もりに、魂の根源へと至る震撼の如き共鳴を覚える。
それは、剣に宿る意志が京也の魂へと語り掛けた言葉であった。
 その魂へと語り掛けてくる意志の存在に、京也は何故か身を切られるような懐古の想いを抱く。
 自らの魂を揺さ振る懐古の痛みに、京也は、遥か遠い古の記憶の断片を甦らせていた。
「《大いなる安逸へと導く、神々の裁き司る偉大なる審判者の杖》」
 それは、京也の魂に刻み込まれた深い絆で結ばれた存在と繋がる記憶であり、今、掌に触れている剣が持つ《力示す真銘》であった。
 京也は、何時の間にか祈るように閉じていたその瞳をしっかり見開くと、剣の柄を握り締める両腕に力を込めて一気に引き抜く。
 新たなる主となった京也の意志に従い、その全身を現した剣は血よりも鮮やかな紅の刃を神々しく煌かした。
『京也、その剣はまさか!』
 《マナ》は、京也の手にある剣を見詰めて驚きの声を上げる。
 そして、まるで何かに憑かれた様に、京也へと駆け寄った。
『嘗て《神》の御手に在り、そして、そこより零れ落ちた力の象徴。紛う事無き《神》の剣、《ラルグシア》!』
 自らが《ラルグシア》と呼んだその神剣の輝きを瞳に移し、《マナ》は、烈しいまでの歓喜の感情を顕わにする。
「《マナ》、一体・・・?」
 京也は、《マナ》が示す歓喜の意味が分からず、やや困ったようにそれを尋ねた。
『その《ラルグシア》は、《創造の双偉神》の一柱である《創世の光神皇》様の力の象徴たる剣。そこに宿す破邪の力は、彼の《流血の邪神》が持つ邪眼の魔力に抗する術となる筈です』
 《マナ》が語るその言葉を聴いた京也は、自分が継承した剣が持つ力の事よりも、剣の真なる主の方に興味を覚える。
「この剣の継承を果した時、そこに宿る意思の声を感じた様な気がしたんだけれど、それは《マナ》が今話してくれた剣の真の主である存在のモノだったのかな?」
『それは、私にも分かりません。でも、貴方がそう感じたのならば、そうなのかも知れませんね』
 京也の疑問に対し、《マナ》が示したのは、何処か曖昧な答えであった。
 しかし、何故か京也の心はそれでも構わないと感じていた。
 それは、握り締めた《ラルグシア》から今も僅かに伝わって来るその意志の温もりに、求める答えを感じられる気がしたからであった。
「やはり、その剣はお前を主と認めたか」
 征也は、期待に違わず京也が《ラルグシア》の継承を果した事を喜ぶ。
 そして、自らが手にしていた愛用の太刀を鞘から抜き放った征也は、それを逆手に握り直すと先刻まで《ラルグシア》が在った場所へと深く突き刺した。
「これで暫くの間は、結界の維持に問題は無いだろう」
 そう呟き身体を起こす征也の表情は、歴戦の退魔師のそれをしていた。
「京也、その剣が持つモノの重みは生半可では無い。それだけは忘れるな」
 一族の歴史とそれ以上のモノを背負い今日迄在り続けてきた神の剣《ラルグシア》、それを継承する事の意味を指して告げられた征也の言葉に、京也は、純粋な眼差しと共に無言で頷く。
「復讐の妄執に囚われた《カイザー》の残党達、特にあのファーロという男の存在は危険だ。その動きをこれまで追い続けていた一族の退魔師の多くが、この数日で帰らぬ身となってしまった。それは、奴が復活させた《流血の邪神》の力が増しているからに違いない。時は一刻を争う。奴の居所に関する情報を入手し次第、此方から討って出る積もりだ。京也、お前もそれにしっかりと備えておくようにな」
 そう語る征也は、《Lord‐Knights》の総帥代行として、《カイザー》の再生を阻止する戦いの犠牲となった一族の対魔師達に対する気持ちの焦燥を必死に抑えていた。
「既に戦いの覚悟は出来ています」
 本来ならば自分が負うべき苦しみを代わりに受けてくれている存在に報いる礼儀として、京也は、自らの果たすべき事への確かな覚悟を示す。
 征也は、京也が示した覚悟の言葉に宿る意志に満足し、再びその口を開いた。
「京也、あのファーロと《流血の邪神》を倒せる者はお前しかいない。その危険を思えばこの様な事を頼むのは残酷なことだと分かっている。だが、それでも頼む、世界の安寧の為、私達にお前が持つその力を貸してくれ」
「言った筈です。既に戦いの覚悟は出来ている、と」
 真摯に過ぎる程に真剣な眼差しで告げられた父、征也の言葉に対し、京也は揺ぎ無い意志を以って応えた。
 そして、京也は、傍らに居る《マナ》を一瞥して、更に言葉を続ける。
「確かに敵の力は強大で危険なモノです。でも、俺には《マナ》という力強い味方がいます。そして、今この《ラルグシア》を継承した。だから、敵が如何に強大な力持つ存在であろうとも、この身に在る戦いの意志と力を以って討ち倒して見せます」
 そう告げる京也の表情は、その言葉に違わぬ不敵な面魂をしていた。
「京也、お前の味方がもう一人ここにいる事を忘れているぞ」
「えっ!?」
 突然、背後に現れた存在より掛けられたその言葉に、京也は、思わず驚きの声を洩らす。
 そして、その存在の正体を確かめるべく背後へと振り返った。
「環!」
「済まない、遅くなったな。だが、約束通り、お前と共に戦う為の力を手に入れて来た」
 気さくな笑みを浮かべて京也へと応える環の眼差しには、告げたその言葉の真実を示すだけの強い意志の輝きが宿っていた。
「君は、蒼麻、環・・・なのか?」
 征也は、京也以上に目の前に現れた環の存在に驚いていた。
「はい、そうです。お久しぶりです、征也さん」
 環は、征也が示す反応を何処か楽しんでいるかのように笑って応えた。
「しかし、・・・否、何でもない。ああ、本当に久しぶりだ。元気そうで何よりだ」
 環に対し、何かを言おうとしてその言葉を飲み込んだ征也は、代わりに再会を喜ぶ言葉を続けた。
 そして、更に言葉を続けようとして征也に先んじて、京也が口を開く。
「環、本当に一緒に戦ってくれる積もりだったんだ・・・。でも、相手が悪すぎて危険じゃないかな」
「ふっ、京也、それは杞憂だ。否、寧ろ心外だな。言っただろう、俺は『お前を護り助ける為の力を手に入れてくる』と。それは、決して己惚れなどでは無い。まあ、論より証拠だな」
 環は、返したその言葉とは裏腹に、穏やかな表情で身に纏った長衣の上着の懐に手を入れ、そこから一つの宝珠を取り出す。
 そして、それを事も無げに自らの足元へと投げ落とした。
 宝珠は、地面に落ちる直前で眩い光を放ち、別のモノへとその姿を変える。
「まさか・・・?」
「その『まさか』だよ」
 目の前で起きたその現象と似たモノへの記憶を甦らせた京也の言葉に、環は、やや苦笑交じりの表情で肯定の言葉を返した。
 それは、以前《カイザー》のファーロが見せた〈魔獣〉召喚の術であった。
果たして、そこに現れたのは一匹の獣であった。
 しかし、その獣は、ファーロに従っていた〈魔獣〉の如き醜悪な狂暴さは微塵も無く、寧ろ、神聖なる気高さを身に纏っていた。
「この獣こそが、《カイザー》の人間が従えている紛い物とは違う本当の《合成獣》であり、《神獣》の名を冠するに相応しき本物の存在だ」
 《神獣》と呼ばれたその獣は、環の言葉に応える様に低く一声だけ咆えると、主の足元へと従い伏せる。
 その動きは勿論、神聖の白銀に輝くその全身から伝わってくる強烈な闘氣が、彼の獣が内に宿す力の有り様を示していた。
「俺は、この《神獣》と共に、《合成獣》の研究に対する誇りを汚す《カイザー》の人間達への報復を果さなくてならない。だから、京也、お前が何と言おうとも退く事は出来ないんだ」
 常と変わらぬその静かな口調の言葉の奥に、環が抱く激しい怒りの存在を感じて、京也の背筋にぞくりとした冷たいモノが走る。
「《カイザー》が《流血の邪神》を復活させ、〈魔獣〉を操り従える中、君というそれに縁在る存在が現れたという事は、これも又、『運命』の導きということなのだろう。京也、彼もお前と同じ様に宿命を背負う者。その力を借りて共に戦うのが良いだろう」
 征也は、環という存在の力とその戦いの意志を理解し、京也に彼と共に戦う事を勧めた。
 京也は、その征也の言葉を受け入れ、それに従う事にする。
「環、俺達と一緒に戦ってくれ」
「ああ、宜しく、京也、《マナ》」
『宜しく願います』
 三人は、互いに共闘の挨拶を交わし、その決意を新たにした。
「では、これから熾烈な戦いに望む者達への餞別として、久川和維から託された《運命の導き》を授けよう」
 征他は、京也達三人にそう告げて懐から取り出した一束のカードを差し出す。
「さあ、其々この中から一枚を選んで取ってくれ」
 その言葉に従い、京也、《マナ》、環の順番で其々が一枚ずつ差し出されたカードの束からそれを選び取った。
「タロウ・カードっていう物ですか・・・。俺のは、《魔術師》です」
『私のは、《女帝》です』
「俺のは、《世界》ですね」
 三人は、互いに自らの手にあるカードに描かれたモノが何であるかを口に出した。
「確かに、それは占術に用いられるモノと同じ意味を持つカードだが、そこには特殊な力が込められている。その事は、《マナ》さん、貴女なら良く分かるのではないかな」
 その征也の言葉に、《マナ》は、真剣な面持ちで頷く。
『はい。このカードからは、何か特別な力を感じます。それはまるで、魂へと直接に語り掛けられる導きの意志を示しているみたいです』
 《マナ》はそう応えた後、自分と京也達の手にあるそれらをもう一度見詰め、再び口を開いた。
『京也の持つ《魔術師》のカードからは、万能の力へと通じる意志の片鱗を持ちながら、未だそれに気が付かずに迷う者の姿、無限の可能性への導きを感じます。環が持つ《世界》のカードからは、万物を包み込み受け入れる大きな意志の存在とその力を以って魂を成長させる者へと至る為の導きを感じます。そして、私が持つ《女帝》のカードからは、他者に与える大きな庇護の力とそれを司る意志の存在、更には隠された自らの想いを貫こうとするもう一つの意志の存在、その二つの意志を果す為の導きを感じます』
 《マナ》の口から語られる其々のカードが持つ寓意とその導きの意味を、京也、環、そして、《マナ》自身がしっかりと自らの心に刻み込んだ。
 その時、自らの持つカードに向けていた眼差しを京也へと向けて、環がふと尋ねる。
「京也、お前は、自分の内に自分とは違う別の誰かの『痛み』を感じた事が無いか?」
「えっ・・・?」
 環から投げ掛けられたその言葉に京也は、強い驚きを覚えずにはいられなかった。
 それが、京也が剣を振るい戦う中で時に感じていた不可思議な意識、魂に刻み込まれた深層の感情の存在を指し示していたからだった。
「否、覚えが無いというなら気にするな。だが若しもそれを感じる事があったなら、その『痛み』を大切にしろ。それはお前をお前として存在させている根源にあるモノ。きっと、お前を本当のお前という存在の高みへと誘ってくれる筈だ」
 まるで謎掛けの様な言葉を口にして、環は、京也に向けた眼差しを細める。
 その細めた眼差しの奥に在る瞳が、一瞬だけ異質な色の輝きに変わっていた事には、そこにいた誰も気が付かなかった。
 そして、何も無かった様に普段の表情に戻った環は、更に言葉を続ける。
「そうそう、征也さん、《獣神》の封印を解く為の方法を調べている時、ずっと以前に封鎖された政府機関の研究施設に《カイザー》の息が掛かった研究者達が何人も出入りしていたらしいという話を聞きました。俺の考えでは、連中がそこで《合成獣》について研究し、あの〈魔獣〉を生み出したのだとおもうのですが、何かそれについての情報を貴方の方でも掴んでいませんか?」
「ああ、私もその情報を掴んで調べてみたが、特別怪しい所はなかったという報告を受けているが・・・」
「それは、貴方の配下にある退魔師の誰かが調査した結果ですか?」
 環は、征也の返答に何かを訝る様な表情を浮かべると、それに関する詳細を尋ねた。
「否、政府関連の施設という事で、一族の者で政府の役人との伝手がある人間に調べさせたのだが、何か問題でも?」
「ええ、少し言い難い事なんですが、《カイザー》は政府の高官達と闇取引をしており、その魔手は貴方の一族の内にも及んでいる可能性が在ります」
 征也は、環の口から語られた一族の裏切りの可能性に特別な感情を示す事無く、唯じっと何かを考え込む。
 そして、真剣な眼差しを環へと返し、その口を再び開いた。
「報告には、『怪しい所は無かった』とあったが、最初に掴んだ情報の許は確かだ。それで《カイザー》の関わりを示す痕跡すら無いのはおかしい。どうやら、君の言う通りのようだな。もう一度、改めて調べ直そう」
 冷静な判断でそう結論づけた征也の瞳には、一族を纏め上げる者としての冷徹な怒りの炎が宿っていた。
「それなんですが、貴方が本気で動いた事を知れば、敵も警戒を強めるでしょう。そこで、ここはノーマークの俺達だけで動くのが得策だと思います」
「成る程、確かにそれなら連中の裏をかけるかもしれないが、その分の危険も大きいな。如何する、京也?」
 妙案ではあるが、場合によっては大きな危険を伴う可能性の在る環の作戦に、征也は、その実行の最終判断を京也へと委ねる。
 そして、京也は、僅かな思案の後、それに頷き応えた。
「俺も環の考えに賛成です。先刻、父さんが言っていた様に、時は一刻を争う以上、多少の危険を覚悟で動くべきでしょう。それに、相手にどれだけの備えが在ろうとも、先制の有利を以って仕掛けられる此方に分があるのは間違いありません」
「そうか、分かった。だが、くれぐれも油断だけはしないようにな」
 征也は、京也の決断を受け入れると、一応の忠告だけは添えておく。
「はい。では、早速、準備を整えてその施設へと向かいます」
「ああ。施設の正確な場所の地図とその見取り図は、此方で既に入手済みのモノを用意させよう。他に何か此方でするべき事はあるかな?」
「移動手段は、ここからそう遠くない場所なので歩く方が目立たなくて良いとして、後は、此方の動きを連中に悟られない様、牽制の意味も込めて陽動の一手を打って貰えますか」
 その環の提案に征也は、不敵な笑みを浮かべる。
「陽動作戦か・・・。ならば序に、一族内に隠れる内通者の焙り出しも兼ねて、派手なヤツを連中に仕掛けてやるかな」
 何処か嬉嬉とした口調で呟く征也、しかし、その内に宿っているのは、鬼気に迫る真剣なまでの意志であった。
 その神崎征也という人間が持つ本質を目の当たりにして、京也は、それを頼もしく感じると同時に、一族の総帥としてその責務に臨む事の重さを感じていた。
 本来ならば、自分が背負う筈である重責。
 それを代わりに担う父に報いる為、自らが今出来る事を果すべく、京也は、今一度、これから臨む《カイザー》との戦いの覚悟を固め直す。
「(余計な事は考えず、今は唯、前に進む事だけを考えろ)」
 京也は、自らの身に降りかかる復讐の憎悪という火の粉を、自らの手で振り払う事、それが今の自分に出来る唯一の事だと己の心に刻み込む。
 その想いの火は、京也の心の中で烈しい闘志となって燃え上がり、剣士としての魂を奮い上がらせた。
 確かなる進むべき先を見極めた京也の意志に応える様に、《ラルグシア》の刃に神々しき輝きが煌く。
 それは、京也にとって本当の意味での戦いの幕開けを告げるべく、神剣に宿りし特異の意思が示したモノであったのかもしれなかった。

 

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