21世紀末、最高の文明を誇る世界。 その文明社会の陰の礎となり、人知れず世界の闇に存在する異形、《魔》と呼ばれる存在と戦い続けてきた来た者達がいた。 卓越した戦闘技能を以って《魔》と戦い退ける者、《退魔師》と呼ばれる彼等を纏め上げる一族に生まれ、その長たる総帥となる宿命を背負った少年、華神京也。 しかし、京也は、その宿命に縛られる事を厭い、未だ自らの責務を果す覚悟を持てずにいた。 そんな、京也に対し、彼の武道の師である榊和泉を始めとする一族一党の者達の多くは理解を示し、その支えとなる事を望んでいた。 自らの宿命を受け入れられず、そして、その責務の重さに心惑う京也の心には、嘗て、突然の別離をもって失った存在への愛憎が大きな陰として今も残っていた。 自らの存在に課せられた宿命に惑う京也を嘲笑うが如く、彼の前に一族と因縁の深き宿敵、世界に混乱を齎す存在たる秘密結社の刺客が現れる。 その存在が操る《流血の邪神》の力に苦しむ京也の想いが、永き封印にその身を縛られし特異の存在《戦女神・マナ・フィースマーテ》を解き放つ。 その邂逅こそが、京也と《マナ》の運命の物語の始まりであった。

2008年6月9日月曜日

『M・O・D+しぃー ~リトル・リリー~』 後編

「さてと、事も一応は治まったみたいだし、俺達は本来の目的に戻るとするよ」
 そう私たちに告げて、セティさんは、崩された威厳を取り戻すように表情を引き締めた。
「はい。色々とご迷惑をお掛けしました」
「否、自分から首を突っ込んだ事だ。礼には及ばないさ」
 感謝する私にそう返すセティさんの言葉からは、貫禄というモノが感じられた。
 しかし、それにしてもこの人は、一体何者なのだろうか。
「ちょっと、格好つけているのは結構ですが、忘れ物でしてよ」
 それまでの経緯(いきさつ)が影響した何処か含みのある言葉を掛け、シェンナさんは、セティさんが外し置いていた双剣に手を伸ばす。
「危ない!」
『?』
 慌ててそれを制止するセティさん。
その言葉の意味を理解できず疑問符を浮かべる私達。
「きゃっ!」
 シェンナさんは、掴んだ双剣を持ち上げようとして、洩らした悲鳴と共に前のめりとなって豪快に転んだ。
「遅かったか・・・」
 その展開を予測していたかの如く、セティさんが悔恨の言葉を口にした。
「ちょっとぉー、何なのですか、コレ!」
「本当に済まない」
 セティさんは、シェンナさんの抗議に対し、今度は先刻と違った真剣な反省の言葉を口にする。
 そして、自らの武器であるそれを拾い上げて、腰の剣帯に戻した。
「この剣は特殊なモノでな。主である者以外には、比重の《制約》が課せられるんだ。まあ、要するに、異常に重いくて持てないだけなんだがな。一瞬だけとはいえ、良く持ち上げられたモノだ。流石は《神聖なる御手》の使い手、『聖信の値』がかなり高いのか」
 この世界に於いて、《神》と呼ばれる特異の存在が認める善行に対し量られる値。
それが『聖信の値』である。
 妙に感心するセティさんに対し、シェンナさんが胸を張る。
「そうね、自慢じゃないけれど、ざっと百二十はあるかしら。ふっ・・・、お嬢様に対する愛情の深さに比例していますのよ」
「そうか、それなら俺のスィーナに対する親愛の深さは、その三倍以上は在るという事になるな」
・・・えっ!?
 事無げに言う口調に聞き逃す所だったが、彼の『聖信の値』は三百六十以上在るという事になる。
 普通、百五十を越えた時点で『聖者』と呼ばれる位のレベルだった。
 それを二倍以上でぶっちぎっているセティさんって・・・。
・・・アレ? セティ・・・?
・・・えぇー!!
「も、若しかして、セティさんって、あのセティさん!? 《マスター・オブ・ヒーロー》! 《英雄皇》ですか!」
「ああ、まあ、多分、そのセティだよ」
 私のはしゃぎ様に気圧されたのか、セティさんの表情には、怯えにも似たモノが浮かんでいた。
『マスターは、こう見えても、結構、繊細な所が多いので余り刺激しないであげてください』
「・・・放っておいてくれ」
 何か照れ隠しのように憮然とするセティさんの反応に対し、私は、苦笑を浮かべて誤魔化した。
「・・・あの、私強くなりたいんです!」
 嘗てこの世界に巻き起こった《光と闇の争乱》を鎮め、甦った《邪神》を討った『栄光の八英士』の一人である存在を前にして、私は、興奮のままにそう口にしていた。
 それに対するセティさんの反応は穏やかであったが、何処か淋しそうな色をその表情に浮かべていた。
「ああ、そうか。そうだな。冒険者である以上はそう望むのも当たり前だな」
 曖昧というよりは、困惑に近い口調で答える彼の姿に、私は、自分の失態に気が付く。
「あの、違うんです! いえ、違わないのですけれど、やっぱり違うんです! えっと、そういう意味じゃなくて・・・」
 私は、誤解と失敗を何とかしようとしどろもどろになって訴えた。
「ああ、分かったから、取敢えず落ち着いてくれ」
 私の態度から、何かを察してくれたのか、セティさんの表情には、優しい笑みが浮かんでいた。
「はい、済みません。あの私、貴方に甘えようとか、そういうんじゃなくて、良かったら教えて欲しいんです。如何したら、貴方の様に強くなれるのかを」
 決してそれは上手な伝え方ではなかったと思う。
 それでも、セティさんは、納得するように頷いてくれていた。
「成る程、キミの気持ちは分かった。しかし、それは俺が如何こう出来る事では無いな」
「ちょっと、それは少し冷たいのではありませんか」
『そうです。冷た過ぎます、マスター』
 セティさんの返答に、シェンナさんとスィーナちゃんが抗議の声を上げてくれた。
「二人共、他者の話は最後まで聴くように」
 話の腰を折られた事を指摘して、セティさんは、言葉を続ける。
「俺が言いたいのは、キミに俺と同じ強さを求めてられても、それを与える術を俺が持っていなという事だ。まあ、正確に言えば、俺の力は俺のみの固有ともいえるモノだから、他の誰にも同じようにはなれないという事だな。それに関しては、スィーナ、お前の方が良く知っているだろう」
『はい。身体的能力や天性の特性という点で、貴女がマスターと同じ経験を積んだとしても、成長の程度に大きな差が生じるでしょう。マスターと同じ稀有な特性を持つ者である雷聖様ならいざ知れず、というのがワタシの見解です』
 スィーナちゃんの解説を受けて、セティさんがハッとした表情を浮かべた。
「そうか! 彼なら、キミの要望に応えられるかもしれない・・・って、あのヒトを捕まえる事の面倒を考えれば、時間の無駄遣いに過ぎないか・・・」
 セティさんは、自ら導き完結させた『答え』に落胆する。
「それ以前に、大切な事を訊き忘れていた。如何して、キミは、強くなりたいんだ?」
「あの私、凄いドジで、何時も皆に迷惑ばかり掛けていて、その中に大好きなヒトがいて、それで少しでも強くなって、そのヒトの役に立ちたいんです!」
 セティさんの尋ねに対し、私は、その答えでもある『想い』を一気に口にした。
 少し捲くし立てて喋り過ぎたと反省する私の瞳に、微妙な反応を浮かべるセティさんの表情が映った。
「済みません。ちょっと取り乱してしまいました」
「否、そうじゃなくて、懐かしい台詞を聴いて少し驚いただけだから」
『はい、本当に驚きです。マスターには、「彼女」達みたいな方を引き寄せる因果が在るのでしょうか』
 私の『台詞』というモノにしみじみとするセティさん達の姿に、私は、困惑の表情を浮かべる。
「いやいや、そうか。それならば、話は早い。これは飽くまで俺からの助言に過ぎないが、キミの場合、強さを求めてそう焦るべきでは無いな。焦れば焦るほど物事が上手く行かなくて、それが更なる悪循環を生じさせる。そう思うのだが」
「焦り過ぎての悪循環、ですか?」
 私は、セティさんが聴かせてくれた助言を一言に纏めて尋ねるように口にした。
「そう。我が身を振り返れば他者の事は余り言えないが、無理をし過ぎればそれが祟って良くない結果を招くという事だ。大切なのは、自分に何が出来て何が出来ないのかを見極め、そこから、何をするべきかを知る事だな。修練と言っても、長所を伸ばすのか短所を補うのかでその方法もかなり違ってくるモノだ」
『そうです。焦ると大切なモノを見失いがちです。先ずは、落ち着いて冷静に物事を見極める事です。冒険者と雖(いえど)も、唯、危険を冒せば良い結果が得られるとは限りません』
 セティさん達の助言に、私は、納得し頷いていた。
「そもそも、少し位の失敗で迷惑だなんて考えず、思い切って遣ってしまえば良いんじゃないか。そこから絆を培えるからこその『仲間』だと俺は思うけどな。キミの想い人はその程度で、キミを見捨てる存在なのか?」
「お姉サマは、そんな人間ではありません!ちょっと、意地悪な所は在るけれど、本当にとても優しい人間です!」
 私の威勢のいい言葉にセティさんは一瞬だけ驚き、それから直ぐに笑顔を浮かべた。
「いや、失敬。知らない相手の事を無闇に量るべきではなかったな。それに何よりも、キミの想い人である彼女に対する想いに対し失礼をした。本当に済まなかった」
 軽口に聞こえるその言葉の中には、全てを察し理解した上での真摯な想いが込められていた。
「私の事を変だとか思わないのですか?」
「否、別に。人間、抱く愛情の形なんてそれぞれに違うモノ。キミの心に在るのが純粋な愛情であるのならば、それで充分だ。それに、キミのその想いを否定する事は、《神》に『全ての自由を許す』という『理』を認めさせた俺の盟友達に対する裏切りだからな。斯く言う俺も、他者に自分の想いを認めさせる為に戦い、《英皇》の名を頂くに至った身の上だ。俺と俺の盟友達がこの世界で《マスター》の称号を冠し続ける限り、キミが抱く『想い』も、そして、そこから生まれた『夢』も、他者に打ち砕かせる事はさせない。それが《英雄皇》である俺の『夢』の一つだ」
『マスター、カッコイイです! 素敵です! そんな恥ずかしい台詞を恥ずかしげも無く言えるマスターは最高です!』
 スィーナちゃんの喝采の言葉に他の皆が苦笑する中、私は、セティさんの強さの理由が、その意思にこそあるのだと理解していた。
「スィーナ、それは決して褒めてないから。というか、お前のお陰で何か色々な事に疲れた。俺は引き篭もる。だから、暫くの間、俺を独りにしてくれ」
『済みません、マスター。調子に乗り過ぎましたー、お許しを!』
 何か地雷を踏んでしまったと思い慌てるスィーナちゃん。
「駄目だ、許さない。反省の為、その娘の支援をしてやれ。《ばじりすく》を育て上げたルヴィナ嬢に負けない成果を期待しているぞ。では、皆、良い夢を! さらば!」
 伝えるべきを伝えたセティさんは、状況に唖然とする私達を放置して、一瞬で姿を消した。
『あの、あの、ワタシはどうすれば・・・? マスター、ひどいデス。ぐすん・・・』
 後に残されて呆然とするスィーナちゃんを前にして、私は、セティさんの好意を理解していた。
「あのスィーナちゃん、否、スィーナさん。お願いします、私の師匠になってください!」
 セティさんは、『支援』と言い表したが、私が求めるべきは『指導』である。
『うん、良いよ。ワタシ、頑張る。そして、マスターにもう一度、パートナーたる存在として認めてもらう。頑張れ、ワタシ! オー!』
 涙でウルウルの瞳で自分を励ますスィーナさんの姿に、私は思わずときめいてしまっていた。
「そうです! ファイトです! オーです! やりましょう、師匠!」
 私は、健気なその姿に自分の姿を重ね合わせて、一緒になって励まし盛り上がった。

「えーと、カポちゃんさん。先刻は、本当にごめんなさいでした」
 私は、もう一度、不思議生物、もとい、カポちゃんに体当たりした事を詫びて頭を下げた。
「いえいえ、お気になさらないで下さい。この鳥モドキは、何時も大袈裟に振る舞いますから」
『オイ、メイド! 勝手に話を纏めるな!』
 調子づくかカポちゃんに、シェンナさんは辟易とした視線を返した。
『《魂震わせる沈黙の鐘》!』
『? ・・・っ! !?!?!?』
 スィーナさんの《魔導》の力によって言葉を封じられたカポちゃんが、バタバタと暴れるのを黙殺して、プリナちゃんが口を開く。
「こちらこそ、ウチのカポちゃんが迷惑を掛けてごめんなさい」
 プリナちゃんは、飼い主としての責任を感じて、代わりにお詫びの言葉を口にした。
「迷惑だなんて、私が悪かったのです」
『皆で反省して譲り合い。美しいです。うんうん』
 スィーナさんは、私達の遣り取りに満足げの様子で何度も頷いた。
「では、私達はこれで失礼しますね。良い夢を!」
 私は、プリナちゃん達二人と一匹に、礼儀である挨拶を告げて、その場から去ろうとする。
「待って、貴女のお名前は?」
 その呼び止められた言葉に、私は、自分が自己紹介を忘れていた事実に気が付く。
「えーと、ファーナです」
「私はプリナ。それで、コッチがシェンナさんで、アッチがカポちゃんです。宜しくね」
 『こちらこそ、宜しくです』と返して、私は軽くお辞儀した。
「あのファーナちゃん。不躾ですが、私とお友達になってください!」
 それは確かに突然の申し出ではあったが、私に依存がある訳が無かった。
「うん、喜んで! では、改めて宜しくです、プリナちゃん」
『仲良しは良い事です。うんうん』
 スィーナさんの言葉に、私とプリナちゃんに加え、シェンナさんの表情も笑顔にほころんだ。

こうして、私に新しい友達と頼れる師匠という二つの掛け替えの無い存在が増えた。
 勿論、カポちゃんやシェンナさんもその中に含まれている。
 そして、セティさんの存在も又、それと同じであった。
 何時かは、私も、彼の様に本当の意味での強さを持つ存在となれるのだろうか。
 それを『夢』に見て良いのだろうか。
 多分、いえ、間違いなくそれで良いのだろう。
 だって、ここは『全ての自由が許された』『夢』に活きる為の世界なのだから。
 だから、先ずは、プリナちゃん達を連れて、シルクお姉サマ達を迎えに行く冒険に出よう。
 それは無理をしない冒険であり、自分が、否、自分達が何処まで行けるかを知る為の冒険である。
「ああ、早くシルクお姉サマの胸に飛び着きたいな」
 私は、そんな想いを口にして、何処までも蒼く澄んだ空を見上げた。



《PS》
 この物語は、天蓬元帥氏原作の『ちょいあ!』と『ラーメンの鳥 パコちゃん』を基にして、パクリ・パロっております。
(一部のキャラは天然派生である事は、あしからず)
 興味が湧いた方は、(是非にも)原典の方こそを一読ください。

0 件のコメント:

あし@

参加ユーザー