21世紀末、最高の文明を誇る世界。 その文明社会の陰の礎となり、人知れず世界の闇に存在する異形、《魔》と呼ばれる存在と戦い続けてきた来た者達がいた。 卓越した戦闘技能を以って《魔》と戦い退ける者、《退魔師》と呼ばれる彼等を纏め上げる一族に生まれ、その長たる総帥となる宿命を背負った少年、華神京也。 しかし、京也は、その宿命に縛られる事を厭い、未だ自らの責務を果す覚悟を持てずにいた。 そんな、京也に対し、彼の武道の師である榊和泉を始めとする一族一党の者達の多くは理解を示し、その支えとなる事を望んでいた。 自らの宿命を受け入れられず、そして、その責務の重さに心惑う京也の心には、嘗て、突然の別離をもって失った存在への愛憎が大きな陰として今も残っていた。 自らの存在に課せられた宿命に惑う京也を嘲笑うが如く、彼の前に一族と因縁の深き宿敵、世界に混乱を齎す存在たる秘密結社の刺客が現れる。 その存在が操る《流血の邪神》の力に苦しむ京也の想いが、永き封印にその身を縛られし特異の存在《戦女神・マナ・フィースマーテ》を解き放つ。 その邂逅こそが、京也と《マナ》の運命の物語の始まりであった。

2008年8月13日水曜日

M・O・D+きゅー ~第五話~

『何たる不浄! 何たるおぞましさ! 性を同じくする者同士で偽りの愛を成そうとは!
正に《天上の光》へと逆らい穢す悪醜の振る舞い。穢れ窮まりし者よ、消え去れ!』
 スミナへと言い放たれる断罪の言葉と共に、《光司る天使》が戴く光輪に強大な力が集り宿る。
「黙れ、秩序の虜者! 身勝手に歪めた神の理を以って、人間の想いを踏み躙るな!」
 俺の中で、抱いた怒りと共に何かが弾けた。
『煩わしき愚者の戯言を。ならば、貴様から消し去ってくれるわ!』 
 《光司る天使》が叫んだのに応え、《裁きの光》が俺へと放たれる。
 発動と同時に肌を焼く程の威力を誇る攻撃を前にして尚、俺の心は狂おしいまでに猛っていた。
「行くぞ!」
 俺は、一瞬だけ閉じた瞳を見開き、睨むようにしてその存在を捉えていた天使王へと突進した。
 迫り来る力の波を振った剣の刃で切り裂き、俺は、敵との間合いを一気に詰めるべく走った。
・・・貰った!
 勝利を確信する俺の瞳に、《光司る天使》の焦燥が映る。
 しかし、俺の瞳は、もう一つの焦燥を映していた。
「レイラ、危ない!」
 叫ぶシュウの声に反応するまでもなく、俺は、スミナを救おうと独り敵の群に飛び込むレイラの姿を見据えていた。
 そして、次の瞬間には、迷う事無く、刃を振う相手を変えていた。
「《神聖烈光斬》!」
 俺は、《力持つ真名》でレイラとスミナの間に在る敵の一群を薙ぎ払い、残った敵へと刃を構える。
「シキ、逃げて!」
『我に背を見せるとは、愚かな。消え去れ!』
 レイラの警告を打ち消す《光司る天使》の会心の言葉に、俺は、自らの最後を覚悟した。
 その覚悟を嘲笑うように、俺の背後で天使王の《裁きの光》が輝いた。

・・・ドサッ!

・・・?
 固い床に叩き付けられ転がるその存在を見詰め、私の意識は、混迷に白濁する。
『シキっ!』
 誰かが半狂乱に叫んだ声が、私にその現実を思い知らせた。
『天上の理に逆らい、歪んだ愛を享受する者よ。その穢れという罪を以って、滅び去るが良い!』
 《光司る天使》は、再びの断罪を私に告げ、《裁きの光》をその身に宿す。
・・・死を以って贖う罪。私の『彼女』に対する想いはそれ程までに許されざるモノなのだろうか? 私には分からない。誰か教えて・・・。
 だが、その答えを示してくれる者は、ここに存在しなかった。
 その答えの為に戦ってくれた『彼』は傷付き倒れ、その答えを教えてくれる『彼女』がもう私に笑い掛けてくれる事は無い。
・・・全てを失ってしまった。
・・・全てを奪ってしまった。
・・・その全てが私の所為。私に力が無かったから。
・・・ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
 私は、その罪滅ぼしの言葉すら形にする事が出来ずに、唯、激しい悲しみに慟哭していた。

・・・誰かが泣いている。
・・・俺は、又、『彼女』の悲しみを癒せないのか・・・。
 魂を振わせて泣く『彼女』の慟哭が、俺の心に突き刺さる。
・・・力が欲しい。
・・・誰でも良い、俺に力を与えてくれ。
・・・『彼女』の想いを護れる。唯、それだけの力を。
・・・『彼女』の抱く想いが『罪』だというならば、俺は、その罪の全てをこの身に受け入れよう。
・・・だから、俺に『罪』を冒す為の力を許してくれ!

 そして、俺は、その意識を闇に委ねた。

『滅せよ、不浄の邪輩!』
 《光司る天使》は、発した一喝と共に、私へと裁きの力を解き放つ。
・・・これで全てが終わる。良かった。
 死を定める強大な力を前に、私の心は、虚ろなままであった。
 最後の時を待つ私。
 しかし、その時が訪れることは無かった。

・・・シキ!
 彼は、刹那の動きで私の前に躍り出ると、無言の一薙ぎで、《裁きの光》を断ち切る。
『莫迦な! 貴様、何故、生きている!』
 驚愕する天使王の言葉に一瞥の視線を返す彼の背中に、翼が生まれる。
 それは、それぞれが違う色を持つ六枚からなる三対の大翼。
・・・綺麗。
 彼の背に在るその美しさに、私の心は奪われる。
『己、偽りの使徒の姿を以って、我ら御使いを愚弄するか!』
 憤る《光司る天使》。
 しかし、その表情には、隠し切れない恐怖が存在していた。
『《   》』
 無感情に近い視線と共に彼が紡いだ《力導く言葉》が発動する。
次の瞬間、天使王の力の象徴たる白銀の翼が灼き払らわれた。
『・・・っ!?』
 驚き恐れて言葉を失う《光司る天使》。
 だが、天使王は、その一瞬の後には、自らの存在を保つ為の魂の器すら失っていた。

『《   》』
 シキが紡ぐ《力導く言葉》と振るう刃の鋭さの前に、残された敵の全てが一掃される。
 その圧倒的な力の前に、私な勿論、他の誰もが畏怖の沈黙を保っていた。
 本来なら、戦いを終えた安堵を抱くべき中で、誰もがその終わりを感じてはいなかった。
「一難去って、又、一難。否、この状況は、寧ろ、先刻以上に危険みたいだな」
 セティは、シキを見詰め、苦難を予見する言葉を口にした。
「いざとなったら、俺たちで食い止めるしかないか・・・。死ぬ覚悟くらいは必要みたいだけれどな」
「それで止められれば、安い相手ですけれど」
 リュフォンとレンガの言葉に、私を始めとする全員が、状況を理解させられる。
『マスター、無理は駄目です。ここは退きましょう!』
「彼を見捨ててか?」
 ナビであるルヴィナの提案に厳しい言葉を返すリュフォン。
 それをセティが止める。
「リュフォン、ここは確かに退くべきだろう。但し、俺とレンガ、それにお前の三人以外の者達だけな」
「了解。まあ、何とかなるだろう」
「そういう事だ、フィリナ。彼の事は、俺達に任せて、君達は、皆を護って脱出するんだ」
 三人の《皇》たちは、覚悟を決めた眼差しを浮かべ、私たちにこの場からの脱出を促した。
「シュウ、ラギ、ごめん。私はここに残るから、貴方達は、皆と一緒に脱出して」
 レイラは、仲間たちにそう告げて、自らもこの場に残る意思を示した。
「レイラ、正気か!?」
「ええ、正気よ。だって、シキが泣いているのが聴こえるから。彼を止められるのは、今、この場では、私だけだから。私は、私の為に彼を止めなくてはいけないの」
 彼女が示したその言葉に、彼女の仲間たちと、セティたち三人も承知するしかないと頷く。
「分かったわ。だから、お願い、彼を止めてあげて」
 ラギがレイラへと向ける信頼の眼差しの奥には、彼女のシキに対する深い想いが存在していた。
「スミナ、辛いと思うが、今は自分が生き残る事を考えるんだ。それが、君を護ろうとした仲間達の想いに報いる術だからな」
 セティが告げる言葉に、私は、黙って頷く。
 本当は、最後まで皆の傍にいたかった。
 でも、それは、自己満足の我が儘でしかないと分かっていた。
・・・ごめん、フィーノちゃん。皆。そして、ありがとう。私、皆の優しさに甘えさせて貰うよ。
 私は、大切な少女と交わした『約束』に縋って、生きる事を選ぶ。
 それが、私に出来る『彼女』たちへの罪滅ぼしになるのだと信じて。
「皆、来るぞ! 行け!」
 セティが叫んだのを合図に、私は脱出する為に走った。

『《   》』
 シキが紡いだ《力導く言葉》に応えて、彼の背に在る闇色の一翼から、破壊の力が解き放たれる。
 厚い石壁を穿ち突き崩す強力な一撃。
それは、私たちの脱出口を塞ぐ、絶大な足止めとなった。
「危ない!」
 見せ付けられる力の威力に呆然とする私たちの耳に、レイラの警告が響く。
 次の瞬間、私たちの視線の先には、シキが振り放つ刃の一撃を自らの剣で受け止める彼女の姿が在った。
『レイラ、大丈夫か!』
 味方の危惧の声を背に、レイラは、一合、又、一合とシキが繰り出す強烈な剣撃を受け止め続ける。
「《威光》の力でも、対抗し切れないか・・・」
「だな。仕方が無い、本気で遣るぞ!」
「了解です」
 セティたちは、互いに短い言葉を交わし合い、シキを止めるべく動いた。
『《魂縛る呪蔦の群》!』
『《猛き獣神皇の乱撃》!』
『《闇を屠る鋭き牙刃》!』
 リュフォンの魔導が完成すると同時に、セティとレンガの二人が戦技を繰り出す。
 その一部の隙も無い連携攻撃を前にして、シキは、ゆっくりと身構えた。
 シキの背中で黒銀の翼が輝き、光を欠いた無明の眼差しのままに一撃が振り放たれる。     
その攻撃は、そこに宿した虚ろさに反して、レイラの身体を構えた得物ごと後方に弾き飛ばした。
 そして、次の瞬間、黒銀と対の位置に在る白銀の翼を輝かせ、彼は、《皇》たちを迎え討つ。
 セティとレンガの誇る力に対し、シキは、無碍(むげ)に長剣を薙ぎ払い斬り返した。
 ぶつかり合う力と力、その戦いの軍配は、シキへと上げられる。
 そして、更には、リュフォンの魔導を自らの魔導で打ち消したシキの力の前に、誰もが圧倒されていた。
「覚悟はしていたが、まさかこれ程までとはな・・・」
 事無げに退けられた事実へと焦りを滲ませ、セティの口から感歎の言葉が洩れ出る。
「後は、決死の覚悟を以って、活路を切り開くしかありませんね」
 それは、自分たちの為にではなく、私たちの為にという意味であった。
「諦めたら、駄目だよ」
 そう言って笑うレイラの表情には、一切の迷いが無く、そして、それはある存在が示した姿に良く似ていた。
 そう、それは紛れも無いシキという存在にであった。
「うん、諦め無ければ、きっと大丈夫だよ。それが奇跡だというのなら、その奇跡を諦めなければ良いだけだよ」
 レイラが告げた言葉に、セティたちは苦笑を浮かべる。
「そうだな、何時でも奇跡は起こせる。そう教えられたからこそ、俺達は、ここに《皇》として存在している。そういう事だ」
「だな。ここで奇跡の一つも信じて起こせない器なら、《皇》の名など受けるに値しない」
「ですね。『彼』の為にも、ここは底意地の一つや二つ出しておかないとですね」
「うんうん。そうそう。という事で、《皇》サマ達に一つお願いがあります」
 セティ達の反応を見たレイラは、満足気に笑い、そして、その言葉を口にした。
「私を信じてください」
 その言葉の意味を問う事を許さず、彼女は、走った。
 彼を、シキを、止める為に。

 その戦いを一言で言い表すならば、それは、『死闘』であった。
 攻めるシキの攻撃を、レイラが繰り出す攻撃で受け返す。
 目に映るモノだけで言うならば、レイラはシキの攻撃を必死に防いでいるだけだった。
 しかし、彼女は、確かに彼と互角に戦っていた。
 その力量の差は歴然でありながら、五分と五分の戦いを可能にしている彼女の強さは、意志の強さであった。
 それを示すように、彼女の身体は、輝く闘志のオーラで包まれていた。
「《穢れを知らぬ威光》、彼の想いがレイラを護り続けているという事か」
「ああ。だが、それにも限界は在る。意志は挫かれる事が無くとも、身体が疲労に耐え切れないだろう」
「その時は、俺達で彼女を護りましょう」
 セティたち三人の《皇》は、シキと戦うレイラの姿を見守りながら、最後の覚悟を決めていた。
『悲し過ぎる戦いですね』
 それが誰の言葉だったのかは分からない。
 でも、その一言が、今、目の前で繰り広げられている戦いの全てを表現していた。
 刃と刃をぶつけ合う度に、二人は、嘆き哀しみ、そして、憤っていた。
 それが、何に対する怒りなのかは分からなかった。
 しかし、それは余りにも悲し過ぎる憤怒であった。

・・・誰でも良い。早くこの戦いを終わらせて! 早く、あの二人を苦しみから解き放ってあげて!
 私は祈るように心で叫ぶ。
 その願いは、残酷な形で叶えられようとしていた。

「レイラ!」
 誰かが叫び、それに合わせるように、彼女の手に合った剣が弾き飛ばされた。
 完全に無防備となった彼女の懐を目掛けて、シキの刃が振り降ろされる。
・・・間に合わない。
 誰もがそう感じていた瞬間、唯一人、レイラだけが安堵で笑っていた。
 それを私は、終焉を覚悟した諦めの安堵だと理解する。
 しかし、それは、私の愚蒙であった。

 一筋の煌めきとして振り放たれる刃の一閃。
 それがレイラを絶体絶命の窮地から護る。
『雷聖!』
 その存在の名を呼んで、重なり合い響く声に宿るのは『希望』であった。
「遅くなって済まない、レイラ。そして、良く持ち応えた。後は、俺に任せろ」
「うん、大丈夫。きっと、助けに来てくれると信じていたから・・・。お願い、雷聖。シキを助けてあげて」
 深い信頼と共に返されたレイラの言葉を受け、彼は、笑って頷いた。
「雪華、レイラと傷付いた者たち全員を癒してやってくれ。セティ、レンガ、リュフォン、まだ戦えるな? 護りは任せたぞ。こんな所で転んだら、笑ってもやらんぞ」
 彼は、背後に従う女魔導師と《皇》たちに指示を告げ、シキへと長剣を構えた。
「雷聖、貴方こそ、ここで転んだら承知しないわよ」
・・・『雷聖』に『雪華』。何処かで聞いたような。
 私は、交わされる二人の遣り取りを半ば放心しながら。聞いていた。
 彼女の言葉を笑って受け流した彼の瞳に、シキに対する戦いの意志が宿る。
「荒ぶれる魂のままに猛り狂うその姿は、正に破壊の権化。《天魔の皇》といった所か・・・。シキ、何がお前にそれ程までの怒りを抱かせたのかは分からない。しかし、今、お前がその怒りの刃を向けていた相手は、レイラだぞ。護るべき相手を傷付けるその暴走、俺が止めてやろう!」
 雷聖は、語るその言葉と共に高めた闘志を以って、シキへと先制の一撃を仕掛けた。
 それに対し、シキは、無感情な破壊の意志を以って迎え撃つ姿勢を示した。
 シキを破壊の権化とするならば、雷聖は、それを凌ぐ力を持つ破壊そのモノであった。
 彼の一撃の速さと鋭さは、シキの攻撃に勝る鮮烈さを誇っていた。
 ぶつかる刃と刃が激しい火花を散らす度に、雷聖は、シキを背後へと押し返していった。
 二人の刃でのぶつかり合いを、その場にいた誰もが固唾を呑んで見詰めていた。
 その見事としか言えない剣戟の戦いは、一瞬にして身を翻したシキの転身と、透かさずの反撃で幕を引く。
『《   》』
 《力導く言葉》と共に放たれた魔力の波が、雷聖へと襲い掛かる。
 しかし、彼はそれを信じられない方法で退けた。
「《軍神烈波斬・真改》!」
 雷聖は《力持つ真名》に宿した闘氣で、シキの魔力を相殺する。
「《神速烈斬》!」
 更に繰り出した戦技の冴えを以って、相殺し切れなかった魔力を切り裂き、雷聖は、その威力を削いだ。
・・・嘘っ! 剣で魔力を討ち破った。
 私は、彼が示した異能に驚き息を呑んだ。
「・・・これが《六皇》の力か・・・、流石と言うしかない破壊の威力だな」
 一瞬だけ驚歎に眼差しを見開いた雷聖は、直ぐに平常を取り戻しながら、ゆっくりと吐き出す呼吸と共に呟いた。
「本当に大丈夫なの、雷聖?」
「ああ、止める術は確かに在る。しかし、その為には、少しだけ時間が必要だ」
 雷聖は、雪華の確認の言葉を背に受けると、シキを鋭い視線で捉えたまま応えを返した。
「雪華、リュフォン、三度、否、二度で構わないから、あの攻撃を防げるか?」
「完全にとまでは言い切れませんが、防ぐだけなら遣れそうです」
「私も遣れるわ。多分」
 雷聖の言葉に、二人の魔導師は、確証の眼差しを以って答えた。
「ならば、頼む。少しの間、時間稼ぎを頼む。それと、セティ、レンガ、お前達の剣を貸してくれ」
「分かりました」
「了解です」
 応えてセティとレンガは、雷聖へと自らの得物を差し出した。
「済まない。借りる」
 自らの得物である剣を背中の鞘に戻し、雷聖は、二人の武器を両手に受け取る。
「では、本気ってヤツを出そうか」
 そう独り言のように呟き、彼は、祈るように瞳を閉じた。
 猛るシキの魔導による攻撃を守護結界陣で防ぎ続ける雪華とリュフォンに護られ、彼は、その言葉を紡ぐ。
『魂の煉獄に繋がれし罪深き者達よ。我が言葉に従いその罪を示せ。寛容には憤怒を、冷静には嫉妬を、精勤には怠惰を、粗食には飽食を、謙虚には傲慢を、無欲には貪欲を、親愛には情欲を。我は七つの徳を以ってその大罪を知る者なり。我が名は《七罪の皇》、汝等の転し身にして、《神を戮す者》なり!』
 祈りの完成と共に、雷聖の身体を闇色の闘氣が包み、やがてそれは彼の額で収縮される。
「《全ての邪悪を知る瞳》は開眼した。今の俺に、否、《七つ身の皇》にとっては、シキ、暴走したお前の《神祥の六皇》の力は脅威になりはしない」
 雷聖は、再び開いた瞳の視線をシキへと向け、告げた言葉を意志とする戦いの構えを示した。

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