21世紀末、最高の文明を誇る世界。 その文明社会の陰の礎となり、人知れず世界の闇に存在する異形、《魔》と呼ばれる存在と戦い続けてきた来た者達がいた。 卓越した戦闘技能を以って《魔》と戦い退ける者、《退魔師》と呼ばれる彼等を纏め上げる一族に生まれ、その長たる総帥となる宿命を背負った少年、華神京也。 しかし、京也は、その宿命に縛られる事を厭い、未だ自らの責務を果す覚悟を持てずにいた。 そんな、京也に対し、彼の武道の師である榊和泉を始めとする一族一党の者達の多くは理解を示し、その支えとなる事を望んでいた。 自らの宿命を受け入れられず、そして、その責務の重さに心惑う京也の心には、嘗て、突然の別離をもって失った存在への愛憎が大きな陰として今も残っていた。 自らの存在に課せられた宿命に惑う京也を嘲笑うが如く、彼の前に一族と因縁の深き宿敵、世界に混乱を齎す存在たる秘密結社の刺客が現れる。 その存在が操る《流血の邪神》の力に苦しむ京也の想いが、永き封印にその身を縛られし特異の存在《戦女神・マナ・フィースマーテ》を解き放つ。 その邂逅こそが、京也と《マナ》の運命の物語の始まりであった。

2008年8月13日水曜日

M・O・D+きゅー ~第一話~

・・・『愛、在りますか?』
「はい。『彼女』へと向ける温かな愛情が」

・・・『夢、抱いていますか?』
「はい。『彼女』がいつも笑っていられる『世界』を形成(つく)ることです」

・・・『冒険、好きですか?』
「はい。実を言うと少し苦手ではあります。でも、『彼女』や優しい『仲間』たちと共に過ごす日々は、私に至福の歓びを与えてくれます」


 私と『彼女』、そして、私の『仲間』たちの性別は、全員共に『♀』です。
 でも、それは私と私たちにとって、瑣末なことですらない事実です。
 だって、私の活きる『世界』は、私に『全てを許す自由』を与えたのだから。

 私の名前は、スミナ・アンジュリカ。
 少し不器用で凄く可愛い『彼女』を護る事を、自らの『夢』に定めた冒険者である。
 その『夢』は、ある人との偶然からなる出会いから始まった。
 今も尚、大切な想い出として残る『彼』との邂逅を、少しだけ美化してここに綴りましょう。


「ちょ、やだっ! ここ何処ぉー! 助けて、フィーノちゃーん!」
 私は、動揺に混乱する頭で、そう叫んでいた。
 嗚呼、我がことながら情けない失態である。
 私は、気を抜きボーとしている隙に、《転送》の罠を踏んでしまったのだった。
 そして、私がボーとしていた理由こそが、助けを求め絶叫した相手である『彼女』のことを考えていたからである。
『お姉さま、落ち着いて・・・。今、《探索の明鏡》で、位置を確認しますから・・・』
「うん、お願い」
冷静な声で伝わるフィーノちゃんからの《伝信》に私は、少しだけ落ち着きを取り戻していた。
『地下階層14階・西‐08・南‐13・敵の存在・・・、ウソっ・・・』
「フィーノちゃん? 如何したの?」
 急に無言となった彼女の態度に凄く嫌な予感を抱き、私は、その先を促すように尋ねた。
『・・・真っ赤・・・』
 その言葉を『冒険者』として解釈し、今の自分が身を置く状況に照らし合わせた結果に導かれる言葉は、『絶望』。
 そう、私は、パーティーの仲間たちとはぐれ、敵の群の中にたたずむしかない状況にあった。
『心配しないで、お姉さま。今、皆と一緒に迎えに行くから・・・』
 そのクールな響きを持つ言葉の中に、彼女の焦燥があることを私は理解していた。
 だからこそ、それに対する私の応えは決まっていた。
「ありがとう。でも、それは駄目よ。皆を危険な目に遭わせる訳にはいかないわ」
 私が転移(とば)されたのは、《罪深き者達の迷宮》と呼ばれる地下遺跡の最下層に程近い場所だった。
 奥に至れば至るほどに、そこを徘徊する敵の力も強大になる。
 それを考えれば、私の為に、仲間たちを、何よりもフィーノちゃんを危険な目に遭わせることは出来なかった。
「だから、私の事には構わないで・・・。お願いよ」
 正直なことを言えば、怖くて仕方が無かった。
 でも、それ以上に、フィーノちゃんたちが危険な目に遭うことの方が怖い。
 それが、私に覚悟を決めさせた理由であった。
『・・・駄目! 必ず、助けに行く。だから、諦めないで』
 フィーノちゃんからの返事に、私は、驚かされる。
・・・フィーノちゃん、本当に変わったわね。
 否、正確に言えば、何も変わってはいなかった。
 そう、昔から、彼女は優しかった。
 唯、少しだけ不器用で、自分を表現するのが苦手なだけだった。
 だからこそ、彼女の周囲には、彼女を誤解する人間も存在していた。
 その中には、心無い言葉で彼女を表現して、傷付けた存在もいた。
 それを知っている私は、凄く悔しかった。
 本当の自分を上手く伝えられないフィーノちゃんと、それを分かってあげようとしない周囲の人々。
 そのどちらに問題があったのかは、正直を言って私にも分からない。
 でも、彼女は、変わった。
 それは、彼女にとって同じ目線でいられる存在ができたから。
 私は、それが嬉しくも在り、そして、少しだけ淋しくも在った。
 自分が彼女を変える切掛けになれなかったから。
・・・ああ、凄く悔しい。
・・・私が、彼女の一番になりたかった。
・・・彼女に素直な感情を伝える事の大切さを教える存在になりたかった。
・・・そして、何よりも彼女に、この想いを伝えたかった。
 でも、それはしてはいけないことだと分かっていた。
 それをしたら、優しい彼女の心を苦しめてしまうから。
「うん、分かった。でも、一つだけお願い。私の生命の光が消えたら、その時は、何があっても退き帰してね」
 私は、既に決まっている覚悟を胸に、最後になる彼女へのお願いを口にした。
『大丈夫、心配いらない。必ず迎えに行くから』
「うん、待ってるよ。でも、本当に無理だけはしないでね」
 私は、それだけを告げると自分から《伝信》の魔力を切った。

「さてと、『約束』したから、それだけは最後まで守らないとね」
 私は、そう呟くと《鎮魔の守護結界》を発動させる為、《力導く言葉》を紡いだ。
 導かれた力の発動と同時に、清浄なる氣を以って《魔》に属する者達を退ける結界陣が私の周囲に展開する。
 私の力でこの《神聖魔法》を維持し続けられるのは、玉輪半周期(四半日)程度だった。
 この結界陣が力を失った時が、私の最後となる瞬間であった。
 その証に、私の気配を感じ取った魔物達が、結界陣の周りへと集ってくる。
「それにしてもぞろぞろと集ってくるわね。流石に鬱陶しく感じるわ。これが全部、フィーノちゃんだったら、正に『理想郷』なんだけどな・・・」
私は、圧迫される息苦しさに疲れる心を慰める為、そんな妄想を想い浮かべながら、静かに瞳を閉じて床へと座った。


「ああ・・・、そろそろ限界かな・・・」
 結界陣を維持する為の精神消費も限界に近付き、朦朧とする意識。
そんな中、私は、視界の全てを塞ぐように群がる魔物達をボーと見詰めていた。
「ごめん、フィーノちゃん。お姉さん、もう限界だよ・・・」
・・・さよなら。貴女のこと、本当に好きだった。
 私は、もう決して届ける事の出来ない想いを胸に、意識を手放す。
 私の意識の最後に浮かんだのは、彼女の笑顔だった。
・・・良かった、怖くはない。良い夢をみながら眠れそうだよ。
 掻き消える清浄の氣、迫り来る魔物達。
 自らの生命の終焉を前にして、私の心はどこまでも穏やかだった。

 私の前に群がる死の宣告者達。
 しかし、それは、唯一人の存在によって、打ち払われる。
「《軍神烈波斬・真改》!」
 天空より響く力強い意志の言葉。
 それは正に、救いの言葉であった。
 彼の手に握られる《守護者の刃》に宿った剣氣は、解き放たれると同時に、私と肉薄していた敵の群を薙ぎ払う。
 そして、彼は私の目の前に颯爽と着地した。
・・・誰?
 驚きの感情を込めた私の視線に、『彼』は、爽やかに過ぎる微笑みを浮かべてこう応える。
「通りすがりの『正義の味方です』!」
「っ!?」
 驚きを通り越し、唖然とする私に対し、彼は、苦笑を浮かべ直した。
「・・・明らかに、『外した』みたいですね」
 少し困ったように呟き洩らし、彼は、私に背を向ける。
「話は後で。先に、あの連中を片付けます」
 宣言して走る彼。
 その動きを一言で表すならば、『神速』である。
 敵に勝る、否、敵を圧倒する素早さで次々に斬り込んでいく彼の姿は、鬼神の化身かと思えるほどであった。
・・・美しい。
 その賞賛の言葉では足りないほどに、彼の技は、一振り一振りに美麗な太刀筋を誇っていた。
「正に『衆寡敵せず』か・・・」
 敵の先陣を一掃し、一旦退き間合いを取った彼は、独り言としてそう呟いた。
 その意味を図るように向けた私の瞳に、彼の疲労が映る。
「まだまだ、俺は、あのヒトの足元にすら及ばないのか・・・」
 そこに現れたのは、焦燥。
 しかし、それは、目の前に在る状況に対するのとは別のモノであった。
「・・・大丈夫ですか?」
「大丈夫、と言いたいところですが、正直、少しきついです」
 その言葉とは裏腹に、彼の口調には絶望の色は存在していなかった。
「理想としては、敵を退けつつ上層を目指して進みたいところですが、情けない話に脱出口の道筋を見失いまして・・・。下手に動くと確実に窮地へと陥ります」
「あの・・・、左右のどちらかに手を付いて進むという方法は?」
 『迷路で迷ったら、壁の一方に手を付けて進めば、いつかは出口に辿りつく』という脱出方法を聞いたことがある。
 私は、それを実践してみては如何かと提案してみた。
「確かにそういいますね。しかし、残念なことにここは全道筋に《転送》と《感惑》の罠が仕掛けられています。《探索の明鏡》か《千里の明眼》を使えますか?」
「すみません。はぐれたパーティーの仲間なら使えるのですが・・・。《伝信》を使う力も残っていません」
 私は、彼の期待に応えられない事を申し訳ないと思いながら、返事を返した。
「そうですか・・・。否、気にせずに。現在地さえ分かれば、脱出口は何とかなるんで訊いただけですから」
「それなら分かります。確か14階の西‐08・南‐13だったと思います」
 私は、フィーノちゃんが教えてくれた《探索の明鏡》の結果を思い出し、口にした。
 その瞬間、彼の表情に動揺が走る。
「ここ《魔物の巣窟》です! それも『オマケ』が出る可能性在りの! 一刻も早く抜けないと危険です。さあ、こっちへ!」
 彼は、そう言い放つと、それ以上の言葉を口にする暇も無いという感じで走り出した。

「どうやら、遅すぎたみたいですね」
 彼は、悔恨にも似た表情を浮かべて、その言葉と共に得物である長剣を構えた。
 彼の視線の先に立ちはだかる者。
 それは、迷宮に眠る死者達の魂の安息を護る《守護者》、《死を狩る天使》であった。
 双頭の二つに、腹顔、そして秘されたもう一つを合わせた四つの顔を持ち、その何れにも血の紅を思わせる双眸を備えた四翼の天使王。
 死者に安らぎを与え、生者に死を与えるその瞳に見詰められ、私は、畏怖に近い感情を抱いていた。
『汝、傲慢なる御技を以って生命を狩り、死者の安らぎを乱し罪人なり。我が御手に在りし、死の錫杖を以ってその罪を刻まん!』
 《死を狩る天使》は、断罪の言葉を以って私たちへと報いることを宣告した。
「大丈夫です。奴の言葉に惑わされてはいけません。あれは俺達の心を挫き、死の言葉を刻み込もうとする手管。真の『罪』とは他の誰かが身勝手に定めるモノでは無く、自分の心のみが知る過ちの形に過ぎません。不安なら、これをどうぞ」
 彼は、背中でそう語ると、自らの腕にはめていた腕輪の一つを外して、後ろ手に私へと差し出した。
 それは、邪悪なる者の呪いから身を護る力を持つ《祝福の腕輪》と呼ばれるモノであった。
「その腕輪が貴女を、奴の《死を刻む言葉》の呪言から護ってくれる筈です」
「ありがとう。でも、貴方は?」
 彼の好意を感謝で受け入れ、私は、渡された腕輪を身に着けた。
「俺の心には、自らの譲れない『夢』へと至る為の『正義』があります。そう『強き想いは意志となり、その意志は全てを凌駕する』、真なる想いに培われた意志を打ち砕けるモノはそれに優る意志のみ。だから、俺の心配は要りません」
 不敵に彩られたその言葉を紡ぐ彼の瞳には、揺ぎ無い意志が存在していた。
「それに、この剣に誓った《聖約》がある限り、あの程度の敵を前に倒れる訳にはいかないんです」
 彼が更なる意志を紡ぐのに応えて、その手にあった剣の刃が輝きを増す。
「・・・勝てる相手なのですよね?」
「《天聖金剛御剣》、剣の皇より譲られたこの《守護者の刃》は、背中に他者の生命を委ねられて敗れる人間に従うほど、軽い存在では在りません」
・・・《正義を貫きし者・シキ》! 
答えとして告げられたその言葉に、私は、彼の正体を知る。
『打ち砕かれぬ正義』と冒険者達から畏敬される程の実力を誇りながら、尚も更なる高みを目指す《冒険皇》の後継者。
だが、彼の正体がそうであるならば、その身に《試練の制約》という呪いを受けている筈であった。
・・・だから、先刻の戦いの疲労がまだ残っているんだ。
 冒険者としての成長を早める代わりに、全ての身体能力を半分に低下させる《試練の制約》。
 それは当然のことながら、疲労の回復を阻む要因でもあった。
「すみません。私に余力があれば、魔法で支援が出来たのに・・・」
「否、それは仕方が無いことです。それに言ったとおり、俺の心配は要りませんから。大丈夫、貴女は必ず俺が護ります。」
 事無げに言って微笑む彼の笑顔に、私は、不覚にも胸の鼓動を跳ね上げてしまった。
 フィーノちゃんと出会っていなかったら、彼に間違いなく惚れていたであろう。
「では、自らの正義を貫くべく、いざ勝負と参りますか!」
 威勢を込めて言い放たれた彼の言葉には、戦いを前にして昂ぶる魂の色が滲んでいた。
『愚かなる者よ。人間の身で天上の光を背負いし我に刃向うか! 良かろう、その身に、自らの罪の重さに打ちひしがれた絶望の死を刻み込んでやろう!』
 《死を狩る天使》は、戦いの意志を示した彼に対し、猛り残酷なる死の宣告を告げた。
「それは面白い! ならば、俺は、この身に宿る『正義』の意志を以って、貴様の罪を裁いてやろう!」
『人間が天の使いである我を裁くとは何たる傲慢! 正に許されざる罪の証だ! 汝には、絶望の死すら生温いわ!』
 彼の宣言を受けた《死を狩る天使》の瞳に怒りの朱炎が宿る。
 しかし、彼はその怒りを真直ぐに受け止め笑っていた。
「第一の罪、自らの存在を驕り己惚れるその傲慢に正義の捌きを!」
 彼は、罪の宣告を言い放った次の瞬間には、《死を狩る天使》の背後を取り、その背中の一翼を斬り裂いていた。
『ば、莫迦な・・・っ!』
 驚愕の表情で痛みに苦悶する《死を狩る天使》。
 彼は、その敵の反応に詰まらないという感情を一瞬だけ見せる。
「他者の傲慢を責め、それを嘲笑う者は、自らの傲慢を知る痛みすら感じる術を持たないいのか・・・。俺を侮っていなければ、その傷の痛みすら在り得なかったモノを」
 まるで独り言を言うようにその言葉を口にした彼は、敵の反撃を避けて退き間合いを取る。
『己、八つ裂きにしてくれる!』
 怒りの言葉と共に、《死を狩る天使》の紅瞳が魔力を帯びて輝いた。
 その意志を示す鋭い視線を以って、天使の《天地震わす力波》が彼とその背後に在った私を射る。
「《慈愛の戦女神》よ! 我にその加護を!」
 祈り叫んだ彼は、迷う事無く私の前で放たれた魔力を受け止めた。
 その力の余波にすら耐えられず瞳を閉じた私の前で、彼は、攻撃の全てに耐え切る。
「第二の罪、他者の生命を軽んじるその酷薄なる振る舞いに正義の裁きを!」
 力強い意志の言葉に違わぬ一撃を以って、彼は、天使の翼の一枚を斬り裂いた。
『くっ、ならばこれで如何だ!』
 天使の王たる証を再び奪われた恥辱に打ち震えながら、《死を狩る天使》は、双頭と腹顔の三箇所から同時に《死を刻む言葉》を彼へと放った。
「《無限の魔神》よ! その真名を以って我が敵に神明の理を示せ!」
 怖じる事無く祈りを叫ぶ彼の言葉の前に、天使の攻撃が掻き消される。
「第三の罪、死を弄ぶその無情は尚も重い!
 生命を奪われ魂を弄ばれし者達に詫びよ!」
 彼は、咆えるように言い放ち、繰り出した連斬で、残る二枚の翼を斬り裂いた。
『己っ! 己っ! 天上の光を恐れぬその傲慢、決して許さぬぞ!』
「その光の象徴である翼を失って尚、自らの傲慢に至らないとは・・・。貴様は、この地に眠る《罪深き者達》の嘆きを分からないのか!」
 深い想いを込めて言い放つ彼の言葉に、天使の血に濡れた剣の刃が大きく共鳴する。
『黙れ、罪在る者が暗き地に縛られその罪を贖うは天上の理。我の知る由ではないわ!』
「黙るのは、貴様の方だ。仮にも天の使いを名乗るのならば、これ以上、『彼ら』の魂をその醜く歪んだ言葉で穢すな! 『彼ら』は罪を犯し得たのではない。在ることすら許されない罪を刻み込まれただけだ。それでも尚、『彼ら』の罪が贖われるべきモノであるというのならば、この俺が自らの正義に懸けて、その全てを贖ってやろう!」
 《死を狩る天使》が示す憤怒を遥かに圧倒する怒りの炎を瞳に宿し、彼は、天を仰ぎ咆えた。
『笑わせるな、人間。我が翼を奪った事、後悔するが良い!』
 その言葉と共に、天使は、聴く者の心を奪う響きを持つ歌を紡ぐ。
「《天上の調べ》か!」
「?」
 その歌の意味を知る彼の反応を訝りながらも、私は、歌の調べに心奪われていた。
『我が名は、《光司る天使》なり』
『我が名は、《夜闇司る天使》なり』
『我が名は、《光知る天使》なり』
 そこに在る筈のない光に導かれ現れたのは、三つ柱の天使王。
そして次の瞬間、彼らは、まるでそれが定められた絶対の真理であるかの如く、一切の乱れを持たず揃った言葉で告げた。
『罪深き者達に、天上の裁きを与えん!』
それは、私たち二人に対する死の宣告であった。

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